2.4 自己欺瞞、見栄、そして父子関係
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児童の社交性の発達と心理測定応用についての研究に長年従事している
張らは、進化の視点をとることによって、多くの有名な社会心理学的現象(社会的認知など)についての理解を深めることができると信じている 現在の社会的環境は人々の心理活動の直接的な原因を生み出しているが、進化はその究極的な原因を提供する
進化論的アプローチは人々の社会的認知や行動パターンを予測することを基本的な目標としているため、現有の社会的認知や行動パターンを予測することを基本的な目標としているため、現有の社会心理学の研究テーマと関連する他、新たな心理メカニズム(例えば、性的嫉妬)について検討する際にも有用となる
彼らは進化的視点に基づく心理学研究の鍵は、機能主義進化理論と伝統的心理学研究の統合にあると考え、進化的な視点と社会的認知の研究を融合させるには、主に2つの道があると考えている
低次の社会的認知に重点を置き、過去の研究成果を元にして低次の社会的認知の適応メカニズムを検討すること
現在の環境要因、個体差、そして進化的メカニズムの間の交互作用に着目すること
進化心理学は、進化論的視点を取り入れた心理学
ダーウィンは『種の起源』で「好まれる変異は保存され、不利な変異は排除される。これを自然淘汰と呼ぶことにする」(Darwin, 1859/1979, p. 131) 現代の進化理論の文脈では、自然淘汰はある集団において遺伝子型の違いによって生存と繁殖の度合いに差が生じ、その結果として集団内の遺伝子頻度が変化することと定義される
ダーウィンは自然淘汰の章に「生存競争」というタイトルをつけている
「生き残れる可能性のある数よりも多くの個体が生産されると、同種の他の個体と、あるいは異なる種の個体と、あるいは物理的環境との間で生き残りのための闘争があらゆる場面で生じる」(Darwin, 1859/1979, p. 117)
ダーウィンによると、闘争や競争は自然淘汰の前提条件
ヒトの進化に関する限り、多くの淘汰圧は生態系との闘争よりもヒト同士の闘争からくるものだった 高名な進化生物学者であるアレクサンダーのよく引用される言葉を借りれば、私達の祖先が生態的環境の支配を達成して以来、ヒトの進化に影響を及ぼした主要な淘汰圧は、他の個体との闘争だった 社会的ダイナミクスにおいては、想定外の状況と頻発する状況の両方が生じ、前者は脳の可塑性の進化を、後者は人付き合いに特化したヒューリスティックの獲得を促した 競争的な社会的相互作用のダイナミクスは、相互作用の対象もまた行為の主体であり、絶えず反応を調整して相手を出し抜こうとするという事実から出発し、社会的闘争を繰り広げる両者がとどまることなく強化を続ける「軍拡競争」へと至る 他者をうまく騙すために人々は自分自身を欺く
うまい欺きとはバレることなく欺くということを意味する
自己欺瞞は無意識に行われるものであるため、検証が困難だった
私達はこの不可能と思われていた課題を実験的に検討し、自己欺瞞の検証を試みた(Lu & Chang, 2010)
考えたこと
自己欺瞞はバレることを避けるように進化してきたため、欺瞞の検出確率に関連する社会的状況に反応する、すなわち、バレる確率の低いときよりもむしろ確率が高いと感じる場合において人々は自己欺瞞をするだろう
騙す側と比較した騙される側の相対的な社会的地位は、自己欺瞞の頻度や促進に影響を及ぼすバレやすさを規定する条件の一つ。他にも条件がいくつか存在する(Lu & Chang, in press)
騙す側と見抜く側の軍拡競争は、異なる地位同士の個体間で行われ、地位の低い方の個体は騙す側となり、地位の高い個体は見抜く側になる確率が高いだろう 仮説を検証するために、2段階の記憶検索プロセスを想定した
他者を騙すように動機づけられたときに、自己欺瞞者は初めは情報の想起に失敗するが、騙しが成功した後には欺瞞者自身の利益になるよう情報を想起するというもの
2つの記憶課題を行った
最初の記憶課題は、騙される者の前で、騙す動機づけがある状況で行われた
2番目の記憶課題は、騙される者がおらず、騙す動機づけがない状況で行われた
2つの記憶課題の成績を比較することで、自己欺瞞の存在が明らかになる
仮説を支持する結果が得られた
高い地位の者とやりとりした参加者は、騙す動機がある条件で、初回に想起した項目数が2回目の想起よりも少ない傾向にあった
一方、騙す動機がない条件では、1回目と2回目に想起した項目数に違いは見られなかった
これらの結果を実験中に相手を騙したことが確実に判明している参加者の結果と比較した
高地位条件の人達は無意識的にターゲットを騙していた、あるいは自己欺瞞をしていたの
同地位条件の人達は意図的に騙していたことが示唆された
性淘汰と配偶行動の研究
武器と装飾品
性淘汰の理論はある形質が異性から選択されることによってその頻度が増えると説明する ヒトや他の多くの動物については選ぶ側の性は主にメスで、オス同士の競合に淘汰圧をかける
淘汰は2つの形で生じる
限りある性(メス)にアクセスするためにオス同士が激しく闘争すること
メスに選ばれるためにオス同士が互いに競争すること
これら2種類の競合により、大きく2つのタイプの性的二型が生じ、いずれもオス側に際立った特徴が発達する 一つは、他のオスと戦い、他のオスを痛めつけ、時には殺すのに役立つ武器のような形質
オスの死亡率が相対的に高いことも武器タイプの性的二型の特徴
メスよりも身体サイズが大きい、力が強い、高い攻撃性・暴力性を備えているといったように、ヒトのオスも同じく武器のような特質や行動を備えている
もう一つは、装飾品と表現される、異性間淘汰や配偶者選択、メスによる選択の産物
ヒトの装飾品的な特徴としては、低い声、顔や体の対称性、自慢、ユーモアのセンスなどを例として挙げることができる
生物学的なもの以外にも文化や技術を通して表現型を延長していく
装飾品が選択される理由は、それがよい遺伝子を示す特徴であるから
装飾品的特徴は2つの基準を満たしていなければならない
維持するためにコストがかかること
役に立たず、むしろ適応度を下げることにつながること
維持するのにたくさんのエネルギーを消費させ、自身の適応度を低下させるのに繋がる手の混んだ装飾品は、無駄なコストを抱えた個体の、全体的な健康さや遺伝子の質を表す特徴として機能する
ハンディキャップを背負いながらも競争に対処する余裕があることを示すことで、よい遺伝子を持っていることをメスにアピールする
ヒトのオスでも、喫煙や飲酒がメスを惹きつけるクールな仕草として捉えられ、たいていの喫煙や飲酒の広告は明示的にあるいは非明示的に性的テーマを表している
配偶行動と装飾的行動
配偶者選択が女性においてではなく男性において、装飾的・武器的行動と関連していることを示すためにいくつか実験を実施した ある研究で私達はリスクテイキングの判断と行動について検討した(Li & Chang, 2010) 装飾品が役立たずで適応度を下げ、その上、維持するのにコストがかかるように、リスクテイキング行動は明確な機能的意義がなく、危険をもたらす
リスクテイキング行動は同種のメスから好まれ、オスの性的魅力とみなされる
リスクテイキング行動と配偶行動の動機の関連を調べ、リスクテイキングは金銭的報酬によって外発的に動機づけられるという対立仮説とどちらが妥当かを検証した
大学生の男女を対象に、魅力的な異性の写真、魅力的ではない異性の写真、お金やメダルの写真のいずれかを呈示した
これらの3条件は単純な知覚課題を装って呈示され、実験参加者はコンピュータ画面上に一瞬だけ表示される写真の位置を、キーボードの2つのキーのいずれかを押して回答するよう指示された
写真の呈示後、参加者は19個の異なるリスクテイキング・シナリオを与えられ、それぞれの状況で自分がリスクテイキングするだろうと思う程度について回答した
19個のリスクテイキング・シナリオは、4種類のリスク状況(金銭的リスク、健康上のリスク、社会的リスク、娯楽上のリスク)を反映していた
4種類の状況それぞれの回答の合成特典を従属変数として用いた
分散分析の結果、私達が予測していた有意な交互作用は確認されなかった
しかし、別々に行ったt検定の結果、男性は魅力的な異性の写真を呈示されたときにおいて、魅力的ではない異性ないしはお金の写真を呈示されたときと比べてリスクテイキング行動が強まることが示された
一方、女性では条件間でリスクテイキングの程度に違いは見られなかった
例えば、健康上のリスクについては、男性において魅力的な写真を見せた条件とお金の条件との間の平均値の差は標準編さんの2分の1の値だった
女性に関してはほとんど同じだった
これらの結果は性淘汰理論をサポートするもの
ほとんどの哺乳類がそうであるように、ヒトのオスは配偶行動に動機づけられた装飾的行動を獲得している 魅力的な女性が周囲にいる場合、男性は無益で潜在的に危険な行動により従事しやすい傾向にある
しかし、そのような行動はよい遺伝子のシグナルとしては有益になる
男性のリスクテイキング行動は配偶行動の動機によって突き動かされ、女性は男性のリスクテイキング行動に惹きつけられる
動機や欲求の状態は意識的・無意識的に私達の行動を引き起こす至近的な手がかりとして機能する
配偶行動と武器的行動
もう一つの研究で(Chang et al., 2011)、私達は男性における配偶行動と戦争との関連を検討した
戦争はヒトが関わる現象の中で、おそらく最も著しい性的二型を示すもの 人類の歴史を通じて、戦争で戦ってきたのは男性だった(女性ははるかに少ない数だった)
既婚、年をとった男性よりも、見込んで若い男性の方がより戦地に赴く傾向があった
あからさまな性的収奪は、ヒトの最近縁種であるチンパンジーや、産業化以前の部族社会においても、近現代の軍隊と同様に記録されている それ以上に横行していたのが、表沙汰にならない配偶行動、すなわち、戦争の影で行われる、敵や民間人の女性を相手にした、レイプ、売春、その場限りの関係、真剣な交際
第二次世界大戦中あるいは大戦後の20の軍事占領地のデータを集めた
2万6000日移乗の占領期間、1600万人の占領軍の兵隊、400万人知覚の性的接触可能性のあった女性(レイプ被害者、売春婦、交際相手を含む)を示している
私達は兵士の性的接触可能率(Warrior sexual accessibility rate: WSAR)という指標を算出した
WSARを男性の生涯における生殖可能期間である60年分に換算すると、1人の兵士が120人と性的接触を持つことになる
これは平和な時代の西洋男性は平均して生涯に10~15人の性的パートナーを持つ(Wellings, Field, Johnson, & Wadsworth, 1994)
このように極端な性的二型を示し、かつ莫大な潜在的配偶機会が存在することから、性淘汰はヒトの戦争の起源に対する究極的な説明となる
私たちは配偶と戦争との関連を検討するために、高次・低次認知課題を用いていくつか実験を行った
男性参加者に魅力的な女性の顔と女性の脚の写真を見せて配偶動機を活性化させた
従属変数として牧場のシーンと戦争のシーンでの反応時間の違い、そして、近現代において中国と敵対関係にあった国に対して、貿易競争よりも戦争をしたいと思う意欲を測定した
若い女性をプライミングされた場合の方が、老女の顔をプライミングされた場合よりも男性参加者は戦争のシーンに対する反応が早い傾向にあった
その一方、若い女性をプライミングされた条件と老女をプライミングされた条件の間には、牧場のシーンでの反応には統計的な差は見られなかった
同様に、魅力的な女性を呈示された条件では、魅力的ではない女性を呈示された条件よりも、参加者は好戦的な態度を示した。
女性参加者の間ではこのような効果は見られなかった
これらの結果は、配偶と戦争との関連は男性では見られるが、女性では見られないということを示している
血縁淘汰、血液関係の効果の研究、親と子の類似性の信念
ダーウィンが初めて適応度の概念を導入してから長いこと、適応度は調べられている個体単独の繁殖成功度と定義されてきた ダーウィンの適応度の概念を拡張させた包括適応度とは、個体の適応度すなわち繁殖成功度に、個体の近縁者の繁殖成功度に影響を及ぼす特定の行動または性質の効果を加えたもの 個体の繁殖成功度に含められる近縁者の繁殖成功度の範囲は、個体とその近縁者との遺伝的近縁度によって決まる
包括適応度の理論は、行動や性質(より具体的には、それらをコードする遺伝子や対立遺伝子)が集団に広まる二つ目の経路を明らかにする
ダーウィンの個体の繁殖を通した自然淘汰の原理に加え、このような血縁者の繁殖成功度を通した経路は血縁淘汰と呼ばれる 包括適応度の理論によると、$ Cを利他行動をとる個体$ iのコスト、$ Bを近縁者$ jが受け取る利益、$ rを個体$ iと近縁者$ jの間の遺伝的関連度(言い換えれば、個体$ iの利他行動の原因となる遺伝子を近縁者$ jが共有している確率)とすると、利他的遺伝子は$ C_i < B_jr_{ij}の条件を満たす場合に広まるとされている。
利益とコストは繁殖成功度の観点から定義される
つまり、利他的な行動や性質が選択され、集団内でその頻度が増加するのは、利他行動を示す個体の繁殖成功度の減少が、利益を受けた近親者の繁殖成功度の増加分に、近親者と利他的個体が利他行動の原因遺伝子を共有する確率を掛け合わせて重み付けしたものよりも小さい場合に限られるということ
日常観察や場面想定による実験では、非血縁者が相互作用の相手である場合よりも、意識的に血縁者とつき合う場合において、人々はより利他的にふるまうことが示されている
この研究の方向性から、血縁関係の認識に応じた自伝的記憶のバイアスを提案する(Lu & Chang, 2009) 将来における利他主義を促進するために、過去の出来事との時間的な隔たりに対する主観的感覚を変化させるバイアス
私達の論拠は、対人関係におけるネガティブな経験が将来の相互作用に持ち越される可能性を減らすメカニズムは、どんなものであれ、緊密な社会集団の仲で調和のとれた関係を維持する上で適応的であるはずだ、というところにある
記憶(特に自伝的記憶)における身内びいきのバイアスはこのような適応的な機能を果たすと思われる
私達の仮説は、ヒトの祖先の進化環境において、緊密な対人関係の大部分は血縁者どうしのものだったことを前提としている
ある研究で私達は、大学生たちに、いとこや友人が関わるポジティブ(いとこまたは友人の条件は参加者間要因として配置された)またはネガティブな過去の経験(出来事の種類の条件は参加者内要因として配置された)を思い出すように支持した 良い出来事を思い出す際には、その出来事に関わる人がいとこか友人かで差がない一方で、いとこが関わる嫌な出来事は友人が関わる嫌な出来事よりも遠い過去として感じられる傾向にあった
これらの結果は、ポジティブな経験の記憶は血縁者と非血縁者との間で時間的な差がないのに対し、血縁者が関わる嫌な出来事は非血縁者が関わる嫌な出来事よりも時間的な隔たりがあるように思い出されるという、私達の仮説を支持するもの
フォローアップの研究として、過去に競争で勝ったもしくは負けた経験の時間的な見積もりについて調べた
血縁者との競争に勝った場合、勝利というポジティブな経験に時間的近接性の効果は見られないと予測される
なぜなら、競争後の勝利者と敗者の相互の反感によって相互作用の継続が妨げられる恐れがあり、血縁者の利他行動と相容れないから
同様のことが血縁者に敗北した場合についても言えるだろう
どちらの状況でも、潜在的な対立や敵意の感情を遠ざけるように働く記憶バイアスは、血縁者との継続的な友好関係および血縁者に対する利他主義を促進すると考えられる
したがって、過去に競争で血縁者に勝った or 負けた経験は、非血縁者に勝ったもしくは負けた経験よりも遠い過去の出来事として思い出されると考えられる
この仮説を検証するため、大学生の参加者の半分には友人と、残り半分にはいとこと、過去に競争して勝った経験もしくは負けた経験を思い出してもらった
分散分析の結果、有意な競争相手の主効果のみが確認された この主効果は、友人との競争はいとことの競争と比べて、勝利したか敗北したかに関係なく、より近い過去に感じられる傾向にあることを示唆していた
これらの結果は、血縁者が関わる過去の競争での勝利もしくは敗北の経験の記憶は、非血縁者が関わる勝利や敗北よりも遠い過去として思い出されるという私達の仮説を支持するもの
この結果は、ポジティブな経験もネガティブな経験と同じで、時間的隔たりが全て等しく記憶されているわけではないことを示唆している
血縁者との友好関係や血縁者への慈悲・利他主義と一致しない経験は、ポジティブな出来事であっても現在より遠い過去の出来事であるように思い出される
父性の不確実性と父と子の類似性の概念
ヒトのメスでは排卵と受精が隠蔽されているという事実により、ヒトのオスは父性の不確実性という独特な繁殖上の課題に直面する 不確実性の結果、父親から子供への投資は、母親からの投資よりも小さく、ばらつきが大きくなる
その一方で、父親からの投資のばらつきが大きいということは、ヒトの親たちは父性の不確実性をそれぞれにある程度までは解消していることを示唆している
生物学や心理学での最新の研究は、ヒトは父性の不確実性を低減させるような行動的・文化的な適応方略を選択してきことを示唆している
父性の不確実性を和らげる文化、慣習、行動の例としては、結婚、父方居住、親子の類似度における父親びいきの見方、「孝」(子が親に対して絶対的な服従と忠誠を誓うこと)などが挙げられる
こうした父性の不確実性を抑える慣習や行動が、父親からの子への投資にどのように影響を及ぼすのか
子供が父親似であるという考えと父親からの投資との関係を、未就学児とその親の大規模サンプルを用いて検討した(Li & Chang, 2007)
家族システムにおける波及効果に関する既存の研究の中で父親からの投資を定義している
家庭内での様々な葛藤に起因する撹乱や波及効果を含む家族システムの中では、父性の疑いが大きくなれば、父親は子供のネガティブな特徴により注意を向けるようになり、その結果として父性が確実な場合よりも厳しい態度で育児をするようになると私達は考えた
私達の仮説は、子供が母親似だと考える家庭と比べ、父親似だと考える家庭では、父親の厳しい育児の原因は、子供の特徴(情緒不安定)よりも父親のネガティブな特徴(抑うつ感情と結婚生活への不満)で、ただし子どもの攻撃行動とは強い相関を示すだろうというもの
結果から、子供が自分似だと答えた父親は、母親似だと答えた父親よりも、厳しい子育てをする傾向が低く、愛情深い傾向にあることが示された
また、仮説通り、父親が子供を父親似だと考える家庭のデータでは、父親の厳しい育児態度と父親の特徴との間に有意な正の相関が見られた
一方、父親が子供を母親似だと考える家庭のデータでは、2つはほぼ無相関だった
後者の集団では厳しい育児態度と子どもの特徴との関連が、前者の集団よりもはるかに強く見られた
父親の厳しい育児態度と父親の2つの特徴の間の相関についても、母親が子供を父親似だと考えている場合に、母親が子供を自分似だと考えている場合よりも強く見られた
母親が子供を父親似だと考える場合、厳しい育児態度と子どもの攻撃行動の相関は有意水準に届かず、その関連は、子どもは自分似だと母親が考えている場合よりも弱い傾向にあった
一方、仮説を支持しない結果として、厳しい育児態度と子どもの情緒不安定の間の関連は、子どもが父親似と考える集団でも母親似と考える集団でも同程度だった
別の研究(Chang et al., 2010)で、子どもが父親似であるという考えと父親からの投資との関連に父方居住が果たす機能について検討した
自分と子どもが似ていると報告する父親は、自分と子どもがあまり似ていないと報告する父親と比べて、結婚生活に満足しており、子供に対して温かく接する傾向にあるだろうという仮説を私達は導いた
また、前者の家庭では、後者の家庭よりも、子供が父親からどの程度自主性を認められていると感じるか、あるいは父親からどの程度心理的にコントロールされていると感じているかと、子どもの生活満足感との関係が強く見られるだろうと予測した
さらに、父方の祖父母との共同生活は父性の不確実性を低減する機能を果たすため、父親との類似度の信念が育児に及ぼす効果は、父方の祖父母との生活によって弱まるという仮説を導いた
これらの仮説を中国の農村の親子サンプルを用いて検討した
私達の予測どおり、父親から子供への愛情深い態度は、両親のどちらかが父親と子供が似ていないと答えた家族よりも、似ていると答えた家族において有意に強い傾向にあった
父親の結婚生活への満足度は、自分と子供が似ていないと報告した父親よりも、似ていると報告した父親のほうが有意に高い傾向にあった
祖父母と同居していない家族では、父親と子供が似ていると答えたグループは、似ていないと答えたグループに比べ、父親の子供に対する温かさは有意に強い稽古にあった
一方、祖父母と同居している家族では、似ていると答えた群と似ていないと答えた群どちらも、父親が子供に対して温かく接する傾向には違いは見られなかった
このことは、父方同居が父親との類似度の信念と同様に、父性の不確実性を高める機能を果たしていることを示唆している
重回帰分析の結果、どちらかの親から父親とよく似ていると評価された子どもたちの間では、父親側の変数は子供の生活満足度を予測する上で信頼性のある変数であることが示された
父親と似ていないと評価された子どもたちの間では、同じ効果は確認されなかった
父性が不確実な状況では、父親との類似度の信念は父親の育児への投資を促進または抑制する機能を持つ
これらの回帰分析の結果は、父方同居によって調整されていた
つまり、父方の祖父母と同居していない家庭では、同居している家庭よりも子どもの生活満足度と父親側の変数との間に統計的に強い関連が見られた
これらの結果は、父親の育児と子どもの生活満足度に対し、子どもと父親の類似度が及ぼす効果を父方同居が弱めることを示唆している